Artist's commentary
おっぱい見たい?しょーがないな~。
時は昼休み。
昼飯を食い終わった俺こと吉岡は、同じく昼休みに教室から出ようとしない怠惰な友人たちと四人で雑談に興じていた。
話題は我々の真ん中に置かれたグラビア誌だ。
誌面では、すでにAVに片足を突っ込んでいるような聞いたこともない泡沫グラビアアイドルが、M字開脚で少ない布地の水着を股間に食い込ませている。
化け物のようにデカイおっぱいをしているが、顔は化け物そのものである。
「これだめだろ…。エロとか言う前に顔がスゴすぎるだろ。」
「汚物ですわ。」
「ユーマでしょ?グラビアじゃなくてムーじゃないのこれ?」
口々に誌上で卑猥なポーズを取る怪物に突っ込みを入れる面々。
俺もほぼ同意見だが、こんな話題では暗くなるばかりで、いまいち盛り上がりに欠ける。
やはりここは身近な乳の話を振っていくべきであろう。
「クラスの中で?んん…。まあ~総合的に見て君津じゃないのか?」
「君津ですわ。」
「涼くん、顔も可愛いしね。なんだかすごい無防備だし。僕はロングヘアのほうが好きだけど。」
君津。全くもって同意見である。
全会一致で選ばれたのは涼くんこと君津涼。
誰に対しても物怖じしないガサツな性格と大雑把な気質、少年のような髪型や言動から、特に女子から「涼くん」と君付けで呼ばれている。
しかし、そんな男っぽさとは裏腹に、すさまじい乳を持った女だ。
さらに君津はだいぶ人懐っこい性格でもある。
そのうえでなんというか、男女間の羞恥心に欠けるような部分があり、異性に対しても距離が非常に近い。
わけ隔てなく誰とでもそのように接するため、クラスの男子は全員、君津の胸の感触を五体どこかしらで感じさせていただいているはずだ。
さらにさらに、なぜか君津は基本的にブラジャーをしていない。
下着を着けていないのを他の女子から注意されているのをよく見る。
まあそんなわけで、クラスで五指に入る巨乳、ガードの緩さ、そしてノーブラと三要素揃った君津は、主にクラスの男子の右手の友達として人気であった。
君津のおかげで、グラビア誌が放つ瘴気によって暗くなりかけた場の空気が明るくなっていく。
会話も盛り上がり、ついつい俺もテンションが上がって、君津の乳について熱く意見を交わした。
…だが、それは失敗だった。
「よしおかーっ!なに話してんだーっ?」
乳談義に花を咲かせていたところに、女子からいきなりでかい声で名前を呼ばれて、開いた口から心臓が飛び出そうになる。
男子を馴れ馴れしく苗字で呼び捨てにし、俺の肩に顎を置いて懐いてくるこの女こそ件の大三元、君津涼である。
…つまりつい今しがた、俺が熱く語っていた理想の乳の持ち主だ。
食堂かどこかから、ちょうど教室に帰ってきた君津は、俺たちの会話に自分の名前を聞いて気になったのだろう。
まさか、おっぱいがどうのこうのという内容まで聞いていないだろうな。
「あたしのおっぱいがどうしたってー?うりうり~。」
最悪だ。聞かれていた。
俺が赤ら顔でこの女のデカチチについて熱っぽく語っているのを。
君津はさっきまで俺たちの話題に上っていたその立派なふくらみを、座った俺の後頭部に無邪気に押し付けてくる。
高1とは思えない巨大な肉感が、君津がぴょんぴょん動くたびに、俺の頭を挟むようにポヨポヨと揺れる。
ああ…こいつブラしてねぇ…。
他の三人がうらやましそうに俺を見ている。
おっぱい談義を本人に聞かれたのは最悪だが、確かにこの感触は最高だ。
「ほーれほーれ!あたしのおっぱいがどーしたんだよぅ!」
「…よ、吉岡が涼くんのおっぱい見たいって。」
闖入者の登場に顔を赤くして俯いていた友人たちであったが、その一人があろうことか俺を売った。
自分だけ助かればいいのか、この卑怯者は。許せん。
俺はその卑怯者に裸締めを極めつつ、なんとか君津に弁解しようとした。
しかし当の本人から飛び出したのは信じられない言葉であった。
「んん…?吉岡、おっぱい見たいの?スケベだなー!」
「じゃあー…見せたげるからこっち来てみ?」
… … …
君津は俺たちを教室の端に導くと、こちらを振り返り、躊躇なく衣服をはだけた。
まるで学校から帰宅し自分の部屋で着替えを行っているような、ごく自然な所作だったが、ここは君津の自室などではなく天下の教室である。
日焼け跡という強大な付加価値を携え、君津のすさまじいおっぱいが、俺たちの眼前にポローンッと思い切りよくまろび出てきた。
慌てて周りを取り囲み、壁を作る俺たち。
何なんだこの状況は…!?
教室に残っている生徒はほとんど寝ているか、携帯に集中してるかだが、二人ほど雑談に興じている女子たちもいる。
見られたらただでは済むまい。
とりわけ君津は普段からネジが二、三本抜けているような言動が多く、女子全員から重要保護対象として認定されている女だ。
君津から一方的に抱きつかれているところでさえ、他の女子の目に留まれば男子が責められる。
今のこの状況はまさに、社会的にも肉体的にも、死も覚悟して挑まねばならない事案と言えるだろう。
俺たちはなんだかよく分からない興奮と緊張感で気が気でないが、当の君津はどこ吹く風だ。
小首をかしげ、どう?と言わんばかりの表情をしている。
男子の前におっぱいを放り出して、恥ずかしくはないんだろうか。
しかしともかく見た。観た。視た。みてみて、見尽くした。
時間にして数分だろうが、俺はその数分を数時間、いや永遠にも変えて見せようという意気込みを持って君津の胸を凝視した。
ふと顔を上げると、君津も俺を見ていた。
優しげな表情で微笑む。
「吉岡、うれしい?」
現実感のないシチュエーションに麻痺していた頭が、急に冷静になる。
俺を喜ばせるためだけに、こんなことをしてくれていたのか。
俺と君津は特別に仲が良い訳ではない。君津は誰にでも懐くし、俺もヤツを好きだというわけではない。
しかし、こんな態度を取られると否が応にも気になってしまう。
なぜ俺のためにここまでしてくれるんだ?
「うん。センセイが、頼みごとは断らずになんでも受け入れなさいって。」
「人の頼みを聞いてあげて、望みを受け入れてあげるのが…えーっと、自分の為になるんだって!」
先生…?ああ…。
彼女の言うセンセイとは学校の先生ではないだろう。
人づてに聞いた話だが、君津が小学生だか中学生の頃、母親が新興宗教にのめりこんでいたらしいのだ。
小規模ながらこのあたりでは有名なその宗教団体は、いわゆるカルトというやつで、現れてから潰れるまで、それはたくさんの悪評を世にばら撒き続けた。
今君津がムズかしげに語ったのは、そのカルトの説法なのだろう。
…重い。
クラスメイトのおっぱいを間近で見て、多少なりと興奮した俺だったが、その理由を聞いて途端に萎えてしまった。
さすがに、カルト宗教の教えを従順に守っている君津の純粋さに付け込んで見るおっぱいは、その重量感以上に重すぎる。
ちょっとだけしていた、コイツ俺を好きなんじゃないか?という期待も見事に折られ、俺は意気消沈した。
いまだ君津のおっぱいにかぶりついているアホ三匹を張り倒し、君津に十分満足した旨と感謝の意を伝えると、君津はとてもうれしそうに笑った。