
Artist's commentary
憲兵とイカマント
憲兵マントはサムイスギル土地で着用していると少なからず後悔することになるので、その着用にはフーリンカザンを考慮した状況判断が求められる。具体的には冬でも滅多に雪が降らないような地域であれば、ほとんどマントで辛抱できるそうだが、豪雪地帯ではマントを着用していても寒いとのこと。
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ラバウルの街の隅にひっそりと建てられた非合法深海オイランハウス。ここは鹵獲した深海棲艦との強制前後を楽しむために特別に用意された施設である。その存在は軍には秘匿されており、知っているのは一部の暗黒提督のみだ。 1
オイランハウスで事を終えた提督は鹵獲深海オイランを一人連れて、送迎用のパッカード・スーパーエイトに乗り込んだ。「お疲れ様であります」待機していた運転手が合成マイコ音声めいた声で控えめに呟く。提督は後部座席に背中を沈め、鹵獲深海オイランの豊満な胸を揉みながら言った。 2
「鎮守府へ」「ヨロコンデー……であります」運転手は控えめに呟き、車を発進させる。「……」提督は運転手を凝視した。濡羽色の髪に、異様に白い肌、バストは後ろ姿からでもわかるぐらいに豊満であった。「お前、いつもと違う奴だな」運転手は目深に帽子をかぶり、淡々とハンドルを操作している。 3
「ええ。アーソン=サンは爆発四散されましたので」「そうか」「ええ」運転手がハンドルを切る。「おい。ルートが違うぞ。バカめが」提督は鹵獲深海オイランの胸を強く揉みながらとがめた。「スミマセン。でもこれでいいのであります」「何?」提督が目を細める。車内の空気がどろりと濁る。 4
「提督=サン、行き先は憲兵隊だ」突如、死神そのものの声が提督に宣告した。「アイエ!?」声の主は運転手ではない。では、一体誰が? パッカードの車内に乗っているのは提督も含めて三人だけである。運転手でないのなら答えは……。 5
ネオン看板の明かりが、鹵獲深海オイランの顔にいつの間にか装着されていた鋼鉄メンポを照らし出す。メンポには恐怖を煽る字体で「憲」「兵」の二文字! 「軍紀……正すべし!」恐るべき宣告と共に、パッカードが急加速! 地獄へ向かう黒い棺桶と化した車体が夜の空気を切り裂く。 6
「アイエエエ!」悲鳴を上げ、逃げようとする提督! 軍人といえどこの不測の事態だ。「降ろしてくれ、降ろしてくれッ! 降ろしてくれよッ! 俺は帰らなくちゃいけないんだ、俺の鎮守府に! ……嫌だ……嫌だーッ! 降ろしてくれ……降ろしてー!」 7
うろたえ、死に物狂いで車から降りようとする提督。だが憲兵の機関出力は十五万馬力。提督がどう足掻こうが、振り解く事など実際不可能であった。 パッカードは提督を乗せたまま、夜のラバウルを無慈悲に駆け抜ける。憲兵隊へ向かって。南方の月が提督を見下ろし、「インガオホー」と呟いた。 8