Artist's commentary
こいしが最近、人間の男を地霊殿へ連れ込んでいる。
初めて会った時はこいしがその人を紹介してくれた。彼とどのようにして縁ができたのかは分からないが、気がついたら親しくなっていたのだという。
『無意識』のうちに、ということなのだろう。私たち、地底の嫌われ者を好いてくれるとは奇特な人間だとも思ったが、彼の横で微笑んでいるこいしを見て、訝しさよりも喜ばしさを覚えた。
以来、地霊殿には自由に出入りしてもらっている。
気になったのは、そのこいしの顔であった。
笑顔は笑顔だが、家族や繋がりの浅い者に見せるようなそれではなく、少し緩く、惚けたような…
俗っぽい言い方をすれば、『女の貌』であった。
不安、とも言えぬ灰色の予感が脳裏を過ぎった。
二人は既に恋仲で…こいしは…色を知ったのではないか、と。
彼らが地霊殿を出入りするうちに、その予感はすぐに確信へと変わった。
深夜、二人に貸した部屋の横を通る時、聞いてしまったのだ。
壊れるのではないかと思う程に寝具が軋む音…そして、今まで耳にした事が無い、長く共に過ごしてきた妹の、『雌の声』を。
どうしていいか分からず、私は逃げるように自室へと戻り、ベッドへ潜った。
二人が繰り広げているであろう光景を瞼の裏に描いたとき、これまでに感じたことのない下腹部の熱と、言いようのない寂しさに襲われたが、気にしないよう自分に言い聞かせ眠りに落ちた。
あれ以来、心が乱され、執筆もままならない。
こいしはかけがえの無い大事な妹だ。人との関わりが大切とはいえ、不純な繋がりは持って欲しくない。
やはりあの時、部屋に押し入り叱咤するべきだったのだろうか…。その後も二人は暇さえあれば、地霊殿を愛の巣に、白昼から情事を重ねている。
しかし、恋を知らない私が彼らの間に割って入ることが正しいのかも分からない。
一体私はどうしたらいいのか…姉として…女として…
そんなことを考えていると、また、微かにだが聞こえてきた。こいしの、『感じている声』が。
私は二人に貸した部屋の前に立った。
扉一枚隔てたところに私がいるなどつゆにも思わないとでも言うように、蜜で濡れた肌を激しく打ちつけ合う音と快楽を帯びた甘い嬌声が響いてくる。
どうやら佳境、なのであろう。
考えは纏まらないままだ。しかしそれでも、二人を止めて…取り除かなければならない。
私を襲う寂しさと、下腹部の熱に悩まされる夜を。そして話し合おう。三人の今後についてを。
私は、意を決して、扉を開いたーーー。