Artist's commentary
FGO 魔性のマシュ「VR」
・ダヴィンチちゃんの開発した仮想訓練プログラム。―ああ、間違いない。彼女がこれを差し出したときの目をみたときに少年は確信していた。
これは良くないものに違いない。…が、必要なものであるなら、これを無為にするわけにもいかない。彼女は、ふざけることはあっても意味のないことはしない人だ。
部屋に戻りいちど試してみることに。スコープをとりつけ電源を入れると、プログラムが立ち上がる―。
―そこには、彼女がいた。 -「VR-feat.Mash Kyrielight」-
・「ダヴィンチちゃんが新しい発明品を作っているらしい。」物理的にも社会的にも狭いカルデア施設内で、そんな情報はすぐに、少女にも届いた。一応確認しておかなくては、そう思い技術顧問兼所長代理の部屋の扉をノックする。
「やぁ、よくきたね」なにか良いことでもあったのだろうか―。「うん、例のものだろう?」
「それならもう彼に渡しちゃった。」ふと机の上に、設計のもとになったらしい紙が散乱しているのを見つけたが、傍目からは読めない。彼女は文字を右から左に書く癖がある。
「わかりました。では様子を見てきま…す、、私の顔になにか?」 いいや、なんでもないと手を仰ぐダヴィンチちゃんの、細まった目の真意を知る術は、無垢な少女には無く―。
―それは、いまだ汚れを知らぬ少女の身体そのものだった。
部屋の明かりの下で、『先輩、トレーニングのお時間ですよ』 そう言って目の前の彼女は上着を脱ぎ始めた。
服の下はトレーニング時によくみるフォルム…がそれにしても露出が多く視線のやり場に困るその姿を見て、はじめて見たときの感嘆とした印象を思い出す。
その外見は完璧なまでに彼の知るものを再現している。彼女の仮想現実モデルだった。しばらくして、正気へ立ち返った。
しまった!はずれだ!ダヴィンチちゃんめ、よくもこんな厄介な代物を押し付けたもんだ!
顔からスコープを剥がそうにも時すでに遅く、ベルトは固定され吸着機能も高く、取り外すことはかなわなかった。
あきらめて、頭をかかえたまま近くのベッドへ背をうずめ天井を仰いだ。さて、どうしたものか…
視界の隅では、なおもそこに仮想現実としての彼女が存在している。部屋の景色もおそらく元のこの部屋と同じようにつくられているのだろう。ベッドに背を投げても受け止めてもらえたのがその証拠だ。
『先輩?』「彼女」はこちらの位置や行動を認識することができるのか、「彼女」は歩み寄りベッドの傍らに腰かけてきた。
少年はそっと、少女の体を眺める。
肩、腋、腰、ふともも、胸元、へそ…。そのきわどく体の各所を露出した装飾からのぞく肢体は、そのどれもがふっくらとした印象を与え、その上で引き締まった堅さを裏付けるような、ととのった肉感を主張している。
髪は手入れが行き届き、睫毛は長い―そうだ、いっしょにいることは多いのに、いつも頻繁に目が合っては逸らすことが多くて、こうしてまじまじと見つめたことはそうなかった。
ベッドに腰かける彼女、そのやりどころなくふとももに置かれた手の指先から腕の根元、腋のかたちまで。シーツに沈むおし…臀部が、体重につぶされつくられる皺の深さまで見て取れる。
―手を伸ばしてみた。「っ」手はその体を通り抜け感触を残すことは無く、かわりに触れた位置に対応したかのような反応を見せる。
少年は、己の背筋に熱が籠もるのを感じた。一時のとまどいをあらわすように、右手を胸元にあてがい肩を上下させる横姿に、時折彼女に抱いていた同じとまどいをよみがえらせていた。
『今からすることは、誰にも言わないでくださいね』そんなことを言いたげな表情だ。口もとに触れた手をひっこめたあと、しばらくその右手を、大事そうに抱えて目を閉じていた。
いちど踏み切ってしまえば、意識はより相手の深部を求め、欲求はあらがいがたい拘束となって、こちらを視界から侵入する魔術で縛るかのように、魂ごと絡めとる―。
彼女はベッドの上にて、少年に膝立ちでまたがり背を向け、その場で上半身のストレッチをはじめていた。
戦場でともに戦っていた時も魅入っていた。その肩甲骨はまるで翼のように影の深さを変え、連動し蠕動する周囲の筋肉は、ぴたりと貼りつく衣装にまた扇情的なひだをつくる。
すでに少年の身体は張りつめていて、身動き一つとれないでいた。腕は、足は脱力し、しかし体の中心に熱の塊となって凝固している感覚―。
魔術の使用時にも似た熱い刻印の呻きに耐えるように、しかし意思に反して眼は貪欲に、目の前の彼女をむさぼりはじめる。
ふだん、どう息をしていたかもおぼつかない。整えようとするも思うようにいかない呼吸。これ以上は―、そう理性が危機感を覚え始めていると―
彼女が、こちらを向いた。膝をすべらせて、腰に深いくびれの影をつくりながら、ひっそりと、しかし大胆に、こちらにその体表を見せつけてきた。
指先はへそのくぼみに指をはめたり抜いたりと、こころもとない仕草を見せつけるようにあそばせている
体は部屋の明かりを遮り、静かにこちらを見下ろすその目に光は乏しく、かわりに何がが宿っているように感じた。
へそのまわりの肉が、ときおり腹直筋とともにうねり影のかたちを変えていく。呼吸にあわせて胸も、下腹部も、微かに上へ下へと流動する。
匂いはなくとも近くで見るとはっきり見える珠のような汗の粒が、肉体を艶めかしく彩っていた
彼女はそっと少年のほうに上体を倒し、ストンと、相手の頭の両脇に腕をつく。音はしなかったが、かわりに少年みずからの鼓動が、ドグンと耳に届いた。
近い―、少し顔を持ち上げて舌を突き出せば、この触手が触れてしまいかねないほどに。
舐めたてれば、舌先を玉肌にすべらせれば、その味覚から脳髄を衝く―彼女から分泌されたその光沢のもとにさえ、そんな期待と愛おしさが、いっそう息を荒立てる。
目の前の彼女はそのままさらに、徐々に少年の方へと倒れ込んでいき、その胸に実る膨らみの先端を、己がマスターの唇に近づけていく―
体の内側から、熱い塊が押しあがってくる錯覚を覚える少年。彼の指、舌を待ち受けるようにして身をよじらせながらなお身を寄せる彼女―
はた、と唇になにか触れた感触がした。
映像の彼女の身体は眼前にある。―が触れてはいない。そも、触れられはしない。だが現実か錯覚か、いずれにしても彼の理性の一部を焼くに余りある反応を起こす。
―【彼女】の目に光は乏しく、しかしその瞳にはぬめしろく光る、魔性が宿っていた。―
しばらくして、
「先輩…、最低です。」そんな言葉が聴こえた気がした。数秒硬直し我に戻ったあと、スコープをはずした少年の部屋には、誰もいなかった。が、誰かがいた微かな残滓は香りとして、確かにそこにあった。
部屋には誰がいたのだろう。いつからいたのだろう。―何を、見たのだろう。 ―何を、想ったのだろう―。
―――
少女は廊下を歩いて行く。
ときおり幾人かの人とすれ違ったが、こうべを下げなおさら顔を隠した前髪の下を、知るものはいなかった。
もし「そう」だったとして、―二人は触れ合わずして、いったいどこまで赦しあったのか―。それは誰にも知る由はなく、ほのかに焼け付いた理性のかぐわしさが語るのみだろう―