Artist's commentary
【PFAOS】轟壁のゼーツェニト【アステラ】
「たたかう……?」
鉄塊が引き摺られる音が止み、声音に似合わぬ拙い独り言が響く。
「てき、どこだ……もしかしておれ、たたかう、いがいのことやるのか……?」
自分が動かされる状況など、やる事は決まっているようなものだ。
しかしこの国の船団は遺跡への調査へ挑むと聞いた。現状己の出る幕は無いはずだ。
「んー……」
どうあれ彼は己があまり賢くないことを自覚していた。
ついたらわかるか、と指示された場所へ向けて彼は再びごろごろと轟音を響かせた。
国などどうでもいい。この遠征の目的など知ったことではない。
けれど───
力こそが評価されるというのなら、力こそが願いに届く手段だというのなら。
「がんばったら、おじょうさまをおそとにだしてくれるかな……」
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ゼーツェニト
性別:男
身長:460サンメテラ
年齢:不明
一人称:おれ 二人称:おまえ、呼び捨て(目上は役職名)
好きなもの:ふかふかした生き物、ひらひらした物 おじょうさま
嫌いなもの:満月、おじょうさまをわるくいうやつ
エヴラマルス重鉄騎士団の所属のはがね人。
ただの壁と言っていいほどの巨大な盾、粗雑に補強された錨を、巨躯と怪力で振り回す。
巨獣のような咆哮を上げ、盾を下しただけで轟音が鳴り響くため「轟壁」の二つ名が付いた。
かつて貴族に戦車の輓(ばん)用奴隷として運用された後、奴隷商の一族に中古として
買いとられ、跡継ぎの護衛用兼「教材」として使われていた。
やがて商人一族の母国はアステラの属国となり、アステラの法に適応できぬまま様々な罪を
重ねた一族はゼーツェニトの幼い主を除いて皆処刑された。その主も奴隷に対する
様々な禁術の使用、両親の不正取引の関与等を認め今は監獄へ囚われている。
解放奴隷となった彼はアステラ軍の兵士となりいくつかの戦果を上げ、
後に重鉄騎士団の所属となった。
元はまともな人格が過酷な奴隷としての生活で心を壊されたか、
それとも生まれついての奴隷が使役動物として育った結果か、いずれにせよ年齢的には成人の域の筈だが、思考は幼く
言葉は拙い。
かつての主が教えたのか、中途半端に文字の読み書きはできる。
裁きの場で証拠として立たされ、主の擁護も糾弾もせず“無言を貫いた”一方で、
今だに主を「おじょうさま」と呼び慕っている。
褒章の度、かつての主の刑期短縮を求める彼を、「奴隷としての生き方に染まり切っている」と憐れむ者や、「腐った鎖にしがみ付く犬」と蔑む者も少なくない。
主を侮辱する等を行わなければ概ね従順。
残っている最初の記録で既に改造手術済奴隷となっており、アステラ軍兵士の頃更に改造を
繰り返したため、本来どのようなはがね人だったのかも判別がつかない。
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■こちらの投稿でエヴラマルス【https://www.pixiv.net/artworks/78953051】にお邪魔します。
よろしくお願いします!団章はマントの胸に掛かって居る部分に。
■色々物騒な得物ですが、今回は冒険回なので発掘重機みたいなものだと思っていただければ!
盾を架橋にさせたり、壁代わりにどうぞ
(武器とかは中の人も毎回適当なので皆も適当に描いてほしい)
■お借りしました:空中輸送船ドラグマルス【https://www.pixiv.net/artworks/79178427】
■“おじょうさま”ナディール【https://www.pixiv.net/artworks/79407630】
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はがね人としても大柄な体を縮こめ、針のような筆を摘み慎重に羊皮紙に落とす。
あったことをそのまま伝える単純な文体に、蚯蚓の干物のような文字。
(おじょうさま、おじょうさまはおてがみ、かかせてもらえないのか?)
不器用ながらそっと手紙を折った腕には、古くは奴隷の頃、新しくは今の立場になった頃の
負傷と修復の後。きっと全身の傷の数も、手を汚す数も、
これから奴隷の頃を上回っていくのだろう。
「それとも、おれがわるいこになったから、へんじをくれないのか」
絶えず送り続けている監獄宛の手紙、返事は一度として来なかった。
出立の手紙が初めて「宛先人不在」で送り返されたのは、彼を乗せた鋼の竜が星明りの地へ発った後のこと。
あの日、小さな主人は首輪に禁術を重ねた。
「いのちをくさりに、くさりをいのちに。
ツェニト、さいごの命令です。つぎの満月までことばを話さないで」
ある少女が裁かれた数日後、満月が夜空に上った。