Artist's commentary
【PFMOH】蝗狩りの白花騎士
神託である。頂の向こうに巣食う殻なしの邪教徒を討て。玉の樹に頭を垂れぬ汎人族に、気を許してはならない。あれらは罪なき獣を、竜を、精霊を、同胞を虐げ貪って来た。ましてや邪神を崇め異能を持ち群れた日には。故にこそ「蝗害」は絶たねばならなかった。
その騎士は部下曰く勇猛であった。
男は一人残らず切り伏せた。
神官曰く清廉であった。
女は諸人を狂わせることが無い様、新たな災禍を生まぬよう、まず胎と顔を念入りに潰した。
民曰く慈悲深き者であった。
赤子達は邪な親から引き離し、火にて清めた。
その日は珍しく骸の数が合わなかった。最後の一人が足りない。何時も探らぬ場所も虱潰しに探す事となった。
贄場で鳥に啄まれていた死体はどれも汎人族の老人、討った邪教徒と似た顔付きのもので。
工房の細工に子らを用いたものは一つも無かった。峰向こうの、同胞だというのに融和を拒み彼らを囲っていた哀れな氏族の「生まれずの実」しか見つからない。
斬り、潰し、踏み、燃やし、向かった頂には何もなかった。祭壇も、偶像すら。
そして足下にはただ、良質の鉱脈と金気に満ちた、次代の樹を養うには最高の─────
討った彼らは何時からそこに居た? 我々が後ではなかったか?
何時も己が出陣を命じられるのは同胞が枯れた直ぐ後ではなかったか?
祖国は生まれずの実すら売らない。では富は何処から?
同胞ならざる信徒が死した時、亡骸は何処へ消えた?
彼らが蝗の群れならば、我々は何だ? 我々が蝗の群れならば、私は───
部下を斬った。
神官を斬った。
神官長も斬った。
祖より生まれし兄弟全てを斬った。
そして祖が根を張る泉へ踏み入れ─────
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ヘヴンよりはるか西にある赤鉄山脈の麓に、汎人族から身を守るため華頭の氏族が他種族までも信徒として取り込み築いた宗教国家があった。
彼らが擁する騎士達を率いる騎士団長は、花頭としてはまだ若者の範疇に入る、才気あふれる者であった。
信仰の柱たる玉の樹への信仰に篤く、討ち滅ぼした敵は数知れず。花弁は豪奢で殻もまた白く壮麗だったという。その鮮烈さたるや彼が軍を率い討伐に赴けば討ち漏らし一つなく、守りに入れば如何なる窮地からも信徒を一人残らず守り抜いた。
彼の最後の戦いは自国を擁する赤鉄山脈、国土のすぐそばに現れた脅威への討伐。
男は信徒を邪神の贄とし華頭の子らを売り払い、女は人を狂わせる魔眼を持つ、汎人の邪教徒達が潜んでいたという。
いつも通り彼は邪教徒を討ち払い、しかし凱旋することは無かった。
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その国の興亡は、閉鎖的故に拡大的政策を採る事が少ない華頭の国としてはあまりにも異質な例だった。
もはや国も、神体たる玉の樹も、宗教指導者たる華頭達ももう居ない。
二年前、何者かにより一夜にして樹は幹より絶たれ、華頭は討ち漏らし一つなく左胸を穿たれ、その石は粉々に潰されていたという。残った他種族の民が国体護持に尽くすも、赤鉄山脈では最大の勢力だったとはいえ、国力不相応な拡大で敵が多く、その領土と信仰は周辺諸国に呑まれて消えていった。
真偽こそ定かではないが国が滅ぶ折、対立していた別氏族の華頭が神殿まで討ち入り玉の樹の切株を見た際、
「なんと悍ましい根の張り様だ」
と漏らしていたという。また、別の記録には切株と華頭の亡骸からツアーガイド・オブ・ヘヴンの近縁新種が発見されたとの記述もある。はたして樹から狂っていたのか、神託を受ける者が狂っていたのか、それとも元から神託を拡大的に受け取った野心家で溢れていたのか。
今となってはもう誰もわからない。
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「こういう癖の強いアレは現時間軸で滅ぼしておけば大丈夫かな」と容疑者は供述しており。
■お借りしました。
冒険の虫【pixiv #87749318 »】(本種ではありませんが同科別種くらいの感じで)
花を冠するはがね達【pixiv #87866158 »】(※樹から寄生虫で狂った希少例なので他の氏族の方は多分まともです)
■???【pixiv #88156512 »】
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浴びた体液が関節で渇き、葉障りな音を立てる。
背中へ絡む矢も煩わしい。だが、ようやくたどり着いた。
ついこの間、この手で燃やした場所だ。
何故ここへ戻ってきたか解らない。ただ未だ生に縋っているのは、私を討つべきは追っ手ではないと、そう思ったからだ。
此処でいつも通り皆討ち取った。否、一人足りなかった筈だ。
瓦礫を誰かが片づけた形跡がある。頭数数えの為に並べた亡骸も消え、引き摺った跡が「贄場」と我々が認識していた場所へと伸びていた。
誰かが、いる。
村落であった場所を通り抜け、跡を辿り足を動かす。
肺を持つ者であれば咽るほどの腐敗した血の匂い。上方から小さな足音と、金属を引きずる音がした。
鳥たちの羽ばたきに混ざる舌足らずながら優しい祈りの声、
見上げれば煌めく払暁色二つ。
ああ、あれは、あれこそ、あのかた、こそ、が─────
【ある華頭の行商の噂話】
「みんな死んでたらしいよ。その消えた騎士団長以外の上の連中はね。騎士団長の名前?なんだったっけかー。
あの氏族は名前が長くて覚えにくかったんだよ。生まれた時の状況に身体の特徴、そして最後に成人後に付く性格を表す言葉で……ああ、思い出した。
コンストネク・エリオ・サフィア・ペスヴィア・ファルアンクス。
"神託が不変の日・頭に・根のある・指の骨"って所か。
頭に根ってのは頭に口があるって意味だよ。めったに居ないんだ。ほら、俺みたいな普通の華頭は頭から物食えないから、それが出来るなら目立つよね。
最後の指の骨っていうのはあの山あたりの方言で信心深いという意味だったっけか。″一つの骨のように祈る手を解かない″とかそういう例えじゃなかったかなぁ」