
Artist's commentary
鎮元斎
格闘世界一の座を競う祭典「ザ・キング・オブ・ファイターズ」。その会場におよそ似つかわしくない、老齢の拳法家がいた。…とうにピークは過ぎているように見えた。闘う事自体が自殺行為に思える程、年老いていた… この小柄な老人は、一体何のために闘うのだろうか。老いてもなお自分が最強である事を証明するためだろうか?それとも、莫大な賞金のためだろうか?…どちらも違った。 老人には弟子達がいた。どの弟子も若年ながら、十分大人と渡り合える程、一流の腕前を持っていた。しかし、この大会にはいつも陰謀が渦巻いていた。我が子にも等しい弟子達を、危険に曝す事が耐えられなかった。愛する弟子達を守るため、老人は共に闘い続けた。 老人は酔拳の使い手だった。そのユーモラスな動きは、張り詰めた会場の空気を和ませる事もあった。しかし、老人の体は悲鳴をあげていた。…とうに限界を超えていた。それでもなお、闘い続けた。老い衰え崩れ落ちそうになる足腰を、酔拳の動きに昇華させた。堪え難い猛烈な痛みを、酒の酔いで紛らせた。…子供達が成長するまでは、死んでも死にきれない。鎮元斎89歳。老人の闘いは終わらない。