
Artist's commentary
Night Land☆
サイレンと喧騒、目が眩むようなネオンと摩天楼、死にかけの電燈とゴミの匂いの路地裏。
ある日─。「素人声優研究所」で事故が発生し、研究されていた声優兵器達が逃げ出した。
「人造魔女MRS」と呼ばれるそれらは、「夜な夜な魔女が現れては街を守る」という、街に伝わるおとぎ話になぞらえて造られた。街の防衛兵器として生まれたはずのMRS達は暴走し、夜になると現れては破壊を繰り返す、この街の敵へと変わった。
ある日─。夜な夜な路上でギターを手に歌を歌う少女「めぐる」は、歌声に寄ってきた謎の生物と心を通わせる。誰も足を止めない路上ライブ、「ゆうひぃ」と名乗るその生物だけがめぐるのお客さんであり、息の詰まるこの街の中の中で心許せる存在だった。
人通りも消えかけた頃、めぐるの後ろで巨大な爆発音が空気を揺らした。聞き馴染んだサイレンの音が一層けたたましく鳴り響き、立ち上る炎が電燈より明るく街を照らしていた。
「何の音!?」「“まじょ”だと、ゆひはおもうけどなぁ」
「ま、魔女!?先週から噂になってる化け物…!?噂じゃなかったの!?」
「まじょはばけものじゃないよ」「なんでもいいよ!やばいよ、こっち来るかも、ゆひ、逃げ──」
視界に光が広がり、強烈な熱気に顔を覆う。
霞む視界の中、爆炎から自分を守った異形の存在がそこにあった。
「ゆ、ゆひ…!その体、化け…」「ゆひは化け物じゃないよ」
「じゃあ…魔女」
「「素人声優研究所」が造った防衛兵器「人造魔女MRS」の一人「YUH」。この街を守る為に、敵を殺す、正義の味方だよ。」
「じゃああの魔女は仲間じゃないの!?ゆひの姉妹ってことでしょ!」
「仲間じゃないよ。街に危害を加えるものは敵、殺してくるからめぐるは安心して歌ってね。」
「ダメ!」
「…?」
「連れてって」
昔読んだ絵本を思い出していた。
魔女が夜の街を守ってくれる、そう信じていたけど現実は違う。ズレた歯車を誰も直そうとしないまま大きくなった、誰も助けてくれない街。
自ら狭い世界に閉じこもって、俯瞰して、みんなが正義の味方を待っている。腐った秩序が壊れる瞬間を。
「私にもやらせてよ、正義の味方」