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Artist's commentary
小料理屋 「夜雀」
夏の蒸し暑い夜に竹林のそばで見かけない和食屋を見つけた。
最近できたのだろうかと、気になり入って食事をした。
こじんまりとした建物だが中はきれいに掃除されており、女将さんの対応もとても丁寧で
出された料理はどれもおいしかった。良い店を見つけたと思い、その日からちょくちょく店に
通うようになり、女将さんとも気心の知れた仲になったある夜の事、いつものように食事を
終えて、女将さんに挨拶をして店を出ようとしたときに急に女将さんに呼び止められた。
「もう、お帰りになってしまわれるのですか?」
「ええ、今日の料理もとてもおいしかったですよ。」
と言いつつも女将さんは私の手を両手で強く握り離そうとしない。
明らかに様子がおかしい。
そういえば、なぜか今日は女将さんは私と目を合わせようとしなかったし、どこかよそよそしい感じがした。
「あの、どうかされましたか?」
「わたし、あなたの事気に入っちゃいました…♪なのでお持ち帰りさせてください」
「それって、どういう…」
と言いかけたところで女将さんと今日初めて目があった。
女将さんは私の目どころか、目を通り越して脳までまっすぐ見通すようなまっすぐな視線で私を見つめており
私はその澄んだ瞳を心の底から美しいと感じてしまった。
その瞬間、全身の力が抜けその場に立てなくなりそれと同時に意識がだんだんと薄れていくのを感じた。
私の意識は彼女が何やら歌を口ずさみながら私を背負い店の中へ運んでいくところで途絶えた。
最後に聞いた彼女の歌はこの世のものとは思えないほど美しいものであった。