Artist's commentary
「誰かのミス」
1945.9.18 本日の出撃、35ソーティー。戦果、大型ネウロイ3機撃破。損失、Bf109F-4,419号機、右脚全壊、左脚遺棄、両脚廃番。
まず、管野少尉が無事に復帰できたことに感謝したい。
今日の件は502JFWの抱えている問題が露呈する形となった。
十日に届く予定の扶桑からの整備補給物資はいまだ届かず、今朝になり503JFWに転属するロマーニャ空軍将校の手荷物が届いた。
これで書類上は、我が部隊の扶桑製ユニットはOR機が確保される事になる。
今後、「リベリオン経由」を冠する輸送物資の報告があればまず、輜重部隊に圧倒的な識別作戦を要請した方がいい。
報告書には書けない寸劇はこうして始まった。
管野少尉の紫電二一型15号機は補給部品が底を付き、要整備持ち越し箇所は23項目、整備幹部の忍耐のほうが先に壊れたという話。
今朝の通常整備点検でOUT機となり、管野少尉にはカタヤイネン曹長の予備機、419号機が当てられる。
しかしこの419号機、2ヶ月前の重整備で最終点検未実施のままOR機になっていたようだ。
整備履歴には主任幹部のサインがあるが、当時の機付長もその幹部も転属でいまは別部隊。
502に419号機の現状を知る者は誰もおらず、整備員のユニット動作点検中に敵がキロフスク上空に出現との入電。
管野少尉は整備員の諫言を聞かず、魔導エンジンの点検しか完了していない419号機で出撃する。
会敵し戦闘機動に入った途端、右脚の主翼が根本から離脱。
管野少尉は左脚のみでバランスを取り、ネウロイのコアに右脚をぶつけこれを撃墜す…。
私が出来たことは、ユーティライネン中尉の背中で気持よさそうに眠る管野少尉のほっぺをつつくだけ…と言いたいところだが、
私もまたこの問題に加担する立場だ。
脚不足、過誤、失策、事故、混乱、遅延は常態化。
作戦と秩序は足元から揺らぐ。
そう、足元から!
敵の攻撃による効果ではない。この問題とは我々の「ミス」の事なのだ。
私に出来ることは、そのミスの責任の一切を自分が負う事だ。
下原少尉が他国ユニットを損失してしまったことを己のことのように恥じていた。
その恥辱感がミスが起き、それが倍加し、複合し、さらに繰り返される軍組織という闇の中にあって灯台の光のように輝いている。
隣室からポクルイーシキン大尉の説教がまだ聴こえてくる。管野少尉には明日、慰めの言葉をかけねば。
『エディータ・ロスマン曹長(当時)日記より』